9月上旬に報道された悲しい事故のニュースを覚えているだろうか。
  
  岩手県にある保育園で、イカダ下りの体験中に1人の子が川で溺れ亡くなった事故だ。
  27人の子どもたちを3つの手作りイカダにのせて下ったが、
  次々と転覆しイカダから川へ投げ出され、
  泳げなかったその子がイカダの下敷きになり亡くなったらしい。
  幼児たちはライフジャケットを装着しておらず、
  しかもそのことは保護者にも事前説明されていなかったとのこと。
  園長は記者会見で涙しながら「安全管理が甘かった。」と謝罪したらしい。
  
  ネット上でさまざまなコメントが掲載されているのと同じように、
  私の中にも亡くなったその子や両親を思う気持ち、またそれ以上に園に対する怒りの感情が沸いてきた。
  
  
  
  実はその頃、8月末にガイア自然学校のGリーダーで、
  来年度のプログラムに向けたイカダ下りの下見研修をしていた。
  
  大型のタイヤチューブを紐でつないだイカダに、ライフジャケットとヘルメットを装着して乗り、
  足下はウォーターシューズ、手に軍手、長袖長ズボンという肌を出さないスタイルで臨んだのだ。
  
  私自身イカダ下りの経験がなかったので、計画中は期待よりも不安が大きかった。
  
  ところがいざ川に出て流れに乗ると、気分はすぐに高揚した。
  流れる景色、透き通る川底、一緒にいる仲間との連帯感、
  広大な川の中を漂うイカダからの飛び込みなど、川とひとつになるような体験を味わえたのだ。
  
  数日後、今度は1人でさらに上流部を下った。ある橋の付近では流れが速まり、
  流木がたまっているテトラ帯に座礁して川に落ちた。
  流れに押され一瞬身動きを取れず怖い思いもした。
  またアユ釣り舟に乗り込ませてもらい、コロガシ釣りでアユを釣り上げるという出会いや体験もあった。
  夕暮れとともに迎えに来てくれた仲間たちに再会すると、
  まるで学生時代に味わった一人旅をしてきたような感覚だった。
  「このわくわくドキドキを失わずに生きていきたい」と強く思った。
  
  保護者の皆様にどうかお願いしたい。
  
  「危ないから」という理由だけで、子どもたちから様々な体験の機会を奪わないでほしい。
  世の中全体が、子どもたちが遊びから体験して学んでいく環境を奪っていく方向を向いている気がする。
  ゲームなどの仮想世界で得る感情ではなく、五感で感じる自然の道理を知ってほしい。
  知識だけではなく知恵を身につけ、たくましく生きていってほしい。
  
  ならば自分にできることは、
  一人ひとりが安心して自分自身に挑み、育っていける環境を作り、守り続けていくことだ。
  ガイア自然学校という舞台で、自分の生きた証を残したい。  
   【文:守屋 謙】